おいしい記憶

Neverland Diner 二度と行けないあの店で―高円寺MASHのミートソース

何を食べるか?は人生で最も出題される問題だと思います。
でもその問題をああでもない、こうでもないと悩みながら考えるのはすごく楽しい。

自分の好きな食べ物を食べる。ごくごくシンプルなことだけど、それだけで幸せになれる。

長年一人暮らしをしていると、このメニューはあの店というような、メニューごとに自分好みのお店が蓄積されていきます。

しかし、いつの間にかお店がなくなっていることもあり、別れを惜しむように味をかみしめる時間が与えられず、モヤモヤした感情を持つことがあります。

そんな気持ちを察してはいないとは思いますが、最近出版された「Neverland Diner 二度と行けないあの店で」が今はなき店にそれぞれが思いを馳せるというテーマの本が面白かったので勝手に記念して(フードコラム集なんですが、テーマ、人選が素晴らしくどの項も面白いです。さすが都築さんって感じです。)、自分にとっての「Neverland Diner 二度と行けないあの店で」

今はなき高円寺の大衆洋食店、MASHのミートソースにまつわるOMOIDE IN MY HEAD(©️NUMBER GIRL)

初めてMASHに行ったのは2007年か2008年だったと思います。
友人と高円寺を散策してた時、ランチするため何気なくふらっと入って
ハンバーグセットを頼んだと記憶しています。

鉄板のステーキ皿で出されたハンバーグは、素材にこだわって美味しい!というわけではなく飽きのこない親しみのある昔ながらの町の洋食屋という感じでした。

ライスとサラダが付いて500〜600円はリーズナブルなので、当時阿佐ヶ谷に住み始めたばかりだったのもあり普段使いできる洋食屋が見つかったとばかりに2週に1回くらいのペースで食べに行っていました。

姉妹店で今も営業している高円寺のニューバーグにも行っていましたが、なんとなく店の雰囲気がMASHの方が好きで、MASHによく食べに行っていました。

出会いはいつだって突然だ。

雨は夜更け過ぎに雪へと変わりそうだった2009年2月

いつものようにデミグラスハンバーグとコロッケのAセットを食券で購入して、席で待っていると2つ隣に座っている人がミートソースを食べていた。

あれ?
ここはハンバーグしかないのに…
と後ろを振り返ると壁にミートソース600円と手書きで書かれたメニューが貼付されていた。

最近始めたんだな

と音声をミュートにしてつぶやき、再度2つ隣の人が食べているミートソースをチラ見すると、うわぁ美味しそう。しかもかなり黒っぽいなぁ。

ん?あっ!もしかして…

デミグラス仕立てだぁ!
間違いない!

5分前に戻って注文し直したい…
時すでに遅し。

次回にしようと思い、その日はいつものデミグラスソースがたっぷりかかったAセットを食べる。


1週間後、今度こそミートソースを注文。

食券機で購入し、席で待つ。

早く食べたい!

はぐれ国際軍団を止める山本小鉄ばりに、はやる気持ちを抑えつける。

まぁまぁ待て。

あの荒くれ者のロードウォリアーズだって、入場曲が鳴るまで律儀に待っていたではないか。

感情と格闘しながら厨房を眺めると、パスタは茹でたままではだすのではなく、炒めている。

ここは自分の好みを完全に理解しているのではと思わされる。
まだ食べてないが、これは絶対美味しいという確信を持つ。

ガラケーで撮影した当時の写真。閉店前に思い出としてもっと撮っておけばよかった…

著しい多幸感に咽び泣きそう

ミートソースが眼前に出され、はやる気持ちを開放するように皿に向かう。

ソースはやはりトマトソースじゃなくデミグラスソースがベースになっている。

具材は牛ひき肉・玉ねぎ・椎茸が入っていて甘みよりコクがある。

これで600円。

こういうミートソースを探していて、いろいろ店をまわっていましたが、まさかこんなとこで出会うとは。

多幸感と満腹感で店を後にする。

以降もミートソースを食べたくなったら、MASHへ行くということを阿佐ヶ谷から引っ越す2012年くらいまで続けていました。

出会いが突然であれば、別れも突然だった…

さそり座の下で白銀が息を潜めていた2017年11月

引っ越してから、食べに行くことがなかなかできなかったのですが高円寺に行く機会があり久しぶりにMASHへ。

あれ?

おかしいな土曜日なのに閉まっている…

2017年10月29日閉店の文字…


自分にとってのマスターピースフードが一つ消えてしまった…


引っ越してからの空白の期間、お店にお金を落とせなかった後悔。

これは自分だけにしておきたいと思い、周りに布教活動していなかったという狭い心に対する悔恨。

美味しさを表現する語彙が追いつかないくらい、初めてミートソースを食べた時の恍惚とお店に対する感謝。

閉店を知った瞬間、様々な感情が行き来した。

あれから3年が経った。

まだあの味を探し求めている。